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ブリュッセルの王宮から程近いグラン・サブロン広場に、「毎日のパン」という意味の名を持つパン屋がある。仏語で「ル・パン・コティディアン」。名前からはありふれた町角のパン屋を想像してしまう。
ところが場所はグラン・サブロンである。百を越える高級美術商が軒を並べる、市内でも最も粋美な地域の一つだ。ゆるやかな傾斜を呈する広場は、その中心に教会を抱き、訪れる人々はそのステンドグラスの美しさに息を呑む。そして広場をかこむのは絵画、陶器、銀器、織物、古書、あるいはラリックなどを専門に扱う古美術店である。その間にカフェやレストランが点在する。その一つが「毎日のパン」である。
店に入りまず目を引くのは、壁一面に、天井まで伸びた棚である。そこには同店所有の農場から直送される蜂蜜、ジャム、オリーヴ油、ワイン、紅茶など所狭しと並んでいる。
そして、その奥のカウンターでは、クロワッサン、バゲット、各種の麦パンなどが売られている。どっしりとした素朴な味のものばかりで、しかも美味である。そして、見逃してはならないのが、カウンターのさらに奥に広がるダイニングである。そこはさながら中世の大農場の食堂である。
ところで、近年ブリュッセルを訪れる旅行者は増加の傾向にあるが、残念なことに主は観光名所を足早に巡り、他都市に移動してしまうのが常である。そこでどうだろう。朝、1時間だけ早起きをし、ホテルのダイニングでの万国共通の味気ない朝食はやめて、グラン・サブロンまで足を延ばしてみてはいかがだろうか。
教会の鐘の音に耳を傾け、お好みのパンにエスプレッソ・コーヒーを頬ばり、古美術の街をゆく人々の流れに身を任せてのそぞろ歩きは、さながら中世への小旅行である。
石畳を踏みしめ、土地っ子のさんざめきに身を沈めてみるのもまた、異国に魅せられる良い方法ではなかろうか。
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