ベルギーのサンタクロース
by 向野令子

北国ベルギーは10月から冬に入る。この長く暗い冬の生活を慰めてくれる色々な行事にはクリスマス、謝肉祭などがあるが、そのトップを行くのが聖ニコラのお祭りである。ベルギーのサンタクロースは12月24日ではなく、12月5日にやって来る。その頃になると、街は何処もクリスマスデコレーションがなされ、かの有名な大広場、グランプラスにもジャンコクトーの言う "華麗な舞台" にふさわしく色とり取りに楽しげなクリスマス市が立ち、キリスト誕生の馬小屋が再現される。聖ニコラの祭はこの心はずむクリスマスのオープニングである。


聖ニコラは14世紀の司教で、ある旅篭のあるじに喉をかききられ塩漬けハムにせんと樽に入れられていた三人の子供たちを助けだし、生き返らせた(あまり深く考えない!)故、子供の神様とされる聖人である。恐らくイギリスやフランスのサンタクロース と由来を同じくする人物であろうが、一方が長靴に三角帽、袋を肩に担いで、となかいひくそりに乗ってジングルベール、ジングルベール♪♪♪と陽気にやって来るなら、他方、聖人ニコラはいかめしい僧帽に赤いマント、悪い子をこらしめるむち打ちおじさんを従えて風格たっぷり、乗り物はろばである。入り口はどちらも煙突。やはり舞台は西洋である。

12月6日の前夜はろばのための人参、角砂糖、かぶ(ビールを出す人もいるがこれは間違い、寄る先々でご馳走になっていたら酔ってしまう)を暖炉の前に並べて、子供達は "聖ニコラ、子供の神様、お利口にしています、どうぞ沢山おもちゃやキャンディを持ってきてください" と歌ってからベッドに入る。親は子供がしっかり眠りについたのを確かめてから人参やかぶを前歯で少しかじり、砂糖をもとにもどしてプレゼントを並べるのである。

小学一年生のクラスの半分以上の子が聖ニコラの存在を信じていると何かで読んだことがある。親の苦労が推し量れる。たいていの場合は兄姉のいる子供が大威張りでだれかにばらし、たちまちクラス中に知れ渡る。それでもなお、 "違うもん、家に来るのはほんとの聖ニコラだもん" なんていう子がいて家に帰って両親を涙で問い詰めたりする。

ご他聞にもれずこの行事も商業化されていて、11月に入るとデパート、スーパーでは聖ニコラの弟子だのそっくりさんが右往左往して親はまた説明に困る。彼等はさらに、幼稚園、学校、はては家の玄関口にまで現われる。大きくなった我が娘達は、どうしてあんなにはっきり分かる "嘘" を心から信じていたのか分からないという。

6日の朝、早起きした子供達は暖炉の前に並んだおもちゃ、本、チョコレート、スペキュロース(スパイスと黒砂糖をたっぷり入れた香ばしいビスケット)などを見て歓声をあげてはしゃぎまわる。そして "聖ニコラ、ありがとーう!" と暖炉から煙突の方に首をのばして叫ぶのである。



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