ストーブ
by 宮下南緒子

ベルギーのルクサンブール州から使節団が来日して、一週間行動を共にした。

 ルクサンブール州は、東隣はルクセンブルグ大公国、南はフランスに国境を接するベルギーで一番州面積が広く、また森林の面積も広い。が、その割に、人口が最も少ない。州のシンボルがイノシシというだけあって、のどかな山里の雰囲気あふれる風光明媚なところだ。

 一行の中にリバン市から来たデオームさんという、実業家がいた。ずんぐりとした精悍な体つき、ごつい手は見るからに、一代で築いてきた働き者の「頑固おやじ」という言葉がぴったりだった。鋳物製品を扱う彼が初めて日本にやって来て、携えてきたものは自社製品の「ストーブ」。日本に輸出したいと大きな意気込みだった。子供の頃学校で使っていた石炭ストーブのようなものだ。

 奥飛騨の山村で公式行事はそっちのけで、早速そのストーブを取り出し、披露におよぶ。「薪を、紙屑を」と言う彼の言葉に従って、しぶしぶと村人は裏手の森に枯れ枝を探しに走ったものだ。「山奥といっても、学校の暖房は今ほとんど電気で全館暖房だし、家庭では石油ストーブなんだよな」。村人の言葉はもちろんのこと彼の耳には入らない。いろりがいつの頃からか消え、ささやかな薪さえも簡単に手に入らなくなった日本の田舎暮しは、どうやら彼にとって想像を絶するものであったに違いない。




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