スープの石
by 宮下南緒子

 「フランドルでは道端の石ひとつでも鐘楼や教会の建築に使えないものはない。」
フランドルの文化をたとえる諺がある。石ひとつでも粗末にせず、何にでも使おう。石ひとつにさえ文化がある。「すべてが文化」と、とらえる風習を表したものだ。

 うろ覚えだが、こんなフランドルの民話を聞いたことがある。

 ある時、貧しい兵隊が空腹を抱えてフランドルの村を歩いていた。と、ある農家の前に立ち止まると、「美味しいスープを作ってあげよう」と家の中に入って行った。あいにく家にはたいした食材もない。彼は鍋に水を一杯入れ沸かし、調味料を入れ、ポケットから小石を取り出すとその中に放りこんだ。「ニンジンがあればなあ」と言うと、誰かがどこからか見つけてきて鍋に入れた。次に「タマネギも」とつぶやくと、誰かが隣の畑に走ってとって来た。「キャベツもいれるともっとよいのに」。その言葉にまたどこかから誰かが見つけてきた。仕留めたウサギを持った近所の子供が丁度その家の前を通りかかった。「そうだ、ウサギも入れて見よう」。そしてスープが出来上がった。「美味しい。」みんな大喜び。兵隊が立ち去ろうとすると、その家の主婦が「こんな美味しいスープが出来る石を譲って」と頼み込んだ。仕方なく彼は石を渡すと、隣の村に向かった。そして、ほどなく道端の小石をポケットに入れ歩いて行った・・・。

 何気ない石ひとつが人を幸福にする。貧しい時代のフランドルの古い教えかもしれない。



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