フランダースの“犬”
by 宮下南緒子

誰でも子供の頃を振り返る時、思い出す物語がある。「フランダースの犬」はそんな物語の一つだ。少年ネロと愛犬パトラッシュの悲しい結末に涙を流し、「こんなことがあってよいのか」と、子供心に悲憤を覚える。そして、犬が欲しいと、思い始める。

 我が家に犬がやって来たのも、たしか私が小学三年生の時だった。姉の友人宅で生まれたベージュ色をした小さなメスの雑種犬は家族会議で「エル」と命名され、八年生きた。その子の「シロ」、捨て犬だった「ボク」、帰米するアメリカ人から譲り受けた大型犬「バスタ一」にいたるまで、犬はいつも末っ子の私に次ぐ大家族の我が家の家族の一員となったものだ。

 十六年間飼っていた猫に死なれて三年。最近再び「犬が欲しい」と思い始めた矢先、アントワープから「本当の“フランダースの犬”を日本に連れて来れないものだろうか」という話しが持ち込まれた。1975年にテレビで評判だったアニメ「フランダースの犬」を松竹が劇場映画として上映することになり、そのキャンペーンに使いたいということだった。

 期侍に胸ふくらませてその犬の来日を待った。2週間の成田での検疫期間を済ませて、目の前に現れたのはアニメの犬とは違ってベージュ色の毛の長いブヴィエ・ド・フランドルという種類の犬だ。昔フランドル地方で労働犬として農家で飼われていたという。その犬“ヨッリ君”と握手をした。暖かなずっしりとした感触が未だに忘れられない。



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