ジャックの庭
by 宮下南緒子

イースターが過ぎ、時間はすでにサマータイム。ぐずついた天気が数日続いた後、雲の合間から日差しがのぞくと春の喜びもひとしおだ。淡白い林檎の花が戸外へと人々の気持ちを駆り立てる。

 ゲント郊外に住むジャックの家を訪ねたのは昨年の4月だった。雨上がりの土曜日の午後、ゲント駅で出迎えてくれたジャックの車で彼の自宅に向かった。町を抜けると家並みはとぎれ、緑の草原が目にまぶしい。霞たなびく前方にはフランドル特有のポプラの木立。「さあ着いた」と10分も走らないうちに車が停まった。

 垣根もない。道路から緑の芝生に続いて建つ家。家の中に案内された。40代半ばのジャックが数年前に建てた家だ。モノトーンの色調でまとめられたリビング、大理石のキッチン。モダンなインテリアだ。「みんな手造りなんだ。」はにかむような、またどこか誇らしげな口調で言うジャックに彼の妻と二人の女の子が寄り添う。開放的な大きなクリアガラスの一枚戸の向こうには表からは想像もしえなかった前庭が遠くの木立まで続く。「あそこまで庭なの」と、感嘆の声をあげる私に「まさか。うちの土地はそのずっと手前まで。ただ、ラッキーだったんだ。」ジャックが答えた。日本でいえぱ借景だ。

 週末はひたすら芝を刈り、通勤時間もブリュッセルのオフィスまで1時間とかからない。ベルギーの中堅サラリーマンの「恵まれた」生活にふとため息が出たものだ。



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