「因幡(いなば)の白うさぎ」について


 大水で隠岐島に流された白うさぎは、ワニザメをだまして故郷の海岸まで帰ってきますが、だまされたと知ったワニザメに毛をむしりとられます。出雲の神々の偽りの忠告で、傷はますます痛くなりますが、大国主命(おおくにぬしのみこと)の忠告により、もとの姿にかえることができます。

 「因幡の白うさぎ」は、このような話です。8世紀に書かれた「古事記」「因幡国風土記」に神話としてのっていますが、似た話はインドネシアにもあり、もとは民話であったと考えられています。

 「因幡」は、いまの鳥取県東部です。鳥取市の白兎(はくと)海岸は、うさぎが毛をむしりとられ泣いていた浜だといわれ、その小高い松林に、うさぎをまつった白兎神社があります。

 うさぎは、大きく野うさぎと家うさぎに分かれますが、民話に登場するのは野うさぎの方が多いということです。素早い動きや農作物をあらすためか、アフリカやアメリカ・インディアンなどの民話の中では、かしこいトリックスター(いたずらもの)として大活躍するそうです。また、文化英雄としての神話的役割も強く、人間のために火を盗んできたり、技術や食物をもたらしたともされているそうです。その半面、きわめて臆病なので失敗話も少なくないということです。「因幡の白うさぎ」も、こうしたうさぎのいたずら者としての性格を伝えているようです。

 大国主命は、うさぎの体をなおしてやりますが、これは、医療についての日本最初の記述だということです。のちに出雲の国をおさめて、この地方第一の神となり、出雲大社にまつられています。

 ワニザメは、この地方の方言でフカやサメのことをワニということから、大きなサメのことだと考えられています。

 また、この話は同じ鳥取県の西伯郡(せいはくぐん)中山町にも伝えられており、こちらは白うさぎが木の枝にのって海へ流されたといわれ、甲(きのえ/木の枝)川という地名が残っているということです。

 なお、インドネシアの昔話では、うさぎの代わりに、ジャッカルや鹿が登場するものもあり、ボルネオでは子鹿がだましたワニの背に乗って川の対岸に渡ったという話が語られているそうです。


「因幡(いなば)の白うさぎ」

 遠いむかし、因幡の国の高草郡(たかぐさごおり/いまの鳥取市付近)に、大きな竹やぶがあり、そこに1匹の白うさぎが住んでいました。ある年、ひどい大水で、その竹やぶはくずれ、うさぎはどんどん海に流され、隠岐島(おきのしま)にたどりつきました。

 うさぎは、因幡の国に帰りたくてしかたがありませんでした。

 ある日、浜で黒い大きなワニザメが遊んでいました。うさぎは「きみらの仲間とぼくらの仲間とどちらが大勢か競争しよう」といいました。

 ワニザメは「それは、おもしろい。競争しよう」と答えました。正直者のワニザメは、うさぎのいうとおりに、仲間を集めてきて、隠岐島から因幡の竹ノ崎まで並びました。

 うさぎは、数えながらワニザメの背中を飛んでいきました。ところが、浜におりるときに「うまいことだまされたな。数はどうでもいい、ただこの浜にもどりたかっただけだ」と口をすべらせてしまいました。

 ワニザメはたいへん怒りました。大きな口でうさぎをつかまえ、白い毛を一本残らずむしりとってしまいました。

 赤はだかにされたうさぎが「痛い、痛い」と泣いていると、出雲の国(いまの島根県東部)の神様たちが通りかかり、わけを聞くと大笑いし、「傷をなおすには、海の水をあびて、風通しのよい山の上に寝るとよい」といって、去っていきました。

 うさぎは、いわれたとおりにしました。ところが、塩水が乾くにつれて、前よりいっそう痛みがひどくなりました。

 そこへ、大きな袋をかついだオオクニヌシノミコトが通りかかりました。ミコトはさきほどの神様たちの一番末の弟で、兄さんたちに荷物を持たされ、遅れていました。

 ミコトは、泣いているうさぎにわけをたずねました。

 うさぎは、今までのことを全部話ました。

 ミコトは「まず、きれいな池の水で体をよく洗いなさい。すっかり塩気を落としたら、ガマの穂を敷き散らして、その上をころげるのだ。そうしてガマの穂を体にまぶしたら、風のないところで静かに寝ているがよい。きっともとのようになれるぞ」といいました。

 うさぎはうれしくてお礼をいいました。そして、ミコトにこれからどこへ行くのかたずねました。

 ミコトは「あの兄神たちと因幡の国の八上姫(やかみひめ)のもとへいくのだ」と答えました。

 うさぎは「お姫さまは、きっとあなたさまをおムコさんにお選びになるでしょう」といいました。

 うさぎのいったとおり、八上姫はミコトをおムコさんに選び、結婚しました。

 うさぎは、池の水で体を洗って、ガマの穂にくるまると痛みはとまり、やがて白い毛がはえて、もとの姿にかえりました。

「因幡(いなば)の白うさぎ」
絵:諸戸美和子

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