「わらしべ長者」について
なんの値打ちもなさそうな1本のわらをもとでに、次々と交換していくうちに財産をきずき、長者 (富豪) になるという話です。
この話は、大きく次の2つに分けられるということです。
1つは、男の子が親からわらしべを1本もらい、道を行き、そのわらと食べ物を包む木の葉と取り換え、木の葉と味噌とを、味噌と名刀を取り換え、その名刀によって、男の子は豊かになるというものです。
もう1つは、貧しい男が観音様に祈願し、最初につかんだものを大切にせよとの観音様のお告げを受けて、わらしべを拾い、わらでしばったアブとみかんを換え、みかんと、ノドの乾いた旅人の持つ反物と換え、反物と馬とを、馬と屋敷とを、それぞれ取り換えて金持ちになるというものです。
前者の話には、長者に「娘がほしければ、わら1本で財産をきずけ」といわれるところから始まる難題型の話や、最後に殿様にみこまれて姫を嫁にもらう話などもあるということです。途中で交換するものや結末は、話によって多少異なるそうですが、ほぼ日本全国で語られている話だということです。
神様のお告げでわらを手に入れる霊験譚 (れいげんたん) になっている後者の話は、「今昔物語集」や「宇治拾遺物語」などにもみられ、前者の話に比べて分布の範囲は狭く、話ごとの変化もほとんどないということです。書物によって伝わった話が、語りに取り入れられたのではないかと考えられています。
朝鮮にも、日本の話と同様のものがあり、わらから始まり、壷をしばるのにわらをやって米をもらい、米をロバの死骸と交換して、最後に金持ちの娘と結婚するという話と、1粒の穀物を鶏が食べ、鶏をネズミが食べ、ネズミを猫が食べ、馬、牛と続いて、牛を食べた大臣の娘を嫁にするという話があるそうです。後者の話は、悪知恵を働かせて有利に交換していく話で、ヨーロッパにもみられるということです。
インドやタイには、ネズミの死体を何度か交換し、大きな財産をきずく話があるということです。貧しい男が金持ちに金を借りにいくと、ネズミ1匹からでも金持ちになれるといわれます。男はネズミの死体をもらい、猫の餌に売って豆を買い、豆を粉にひいて薪 (たきぎ) とりにほどこし、薪をもらいます。薪をためて、大雨で薪が不足したときに売って大もうけし、金持ちの娘を嫁にもらうという話だそうです。
むかし、貧乏な男がいました。金持ちになり楽なくらしがしたいと、観音様にお願いしていました。
ある日、観音様は「この寺を出て、一番初めにさわったものを、大事にもって旅にでなさい。そうすれば、楽になる」といいました。
男は、このことばを聞き、喜んで寺を出ようとしたところ、石につまずいて転びました。1本のわらしべが手にふれました。一番初めにさわったものがわらしべか、と思いましたが、観音様にいわれたことは守らなければなりません。男はわらしべを持って旅にでました。
しばらく行くと、顔のまわりをアブが飛びまわり、うるさくてしかたがありません。つかまえて、わらの先にしばり、歩きました。
立派な行列がやってきました。かごの中から子どもの泣き声が聞こえてきました。なかなか泣きやみません。その子どもが男を見ました。わらの先にアブをつけているのが見えました。
子どもは「あれが欲しい」といいました。母親はかごをとめて、男に「そのアブをください」といいました。
男は「これは観音様からいただいたものだから、あげるわけにはいかない」といいました。
すると、母親は「みかんと換えましょう」といいました。男はしかたなしに交換しました。
子どもは、アブをもらうと泣きやみました。
夏の暑い日でした。男は、ノドがかわいてきたのでみかんを食べようとしました。ふと見ると、木の下に、青い顔をして、すわりこんでいる人がいました。
その人が「ノドがひりひりして歩けない、みかんをくれないか」といいました。
男は「これは観音様からいただいたものだから、あげるわけにはいかない」といいました。
その人は、包みを広げて「わたしは呉服屋、この布とみかんを取り換えてください」といったので、男はしかたなしに交換しました。
男は、気がつきました。観音様のいったとおり、わらがみかんに、みかんが立派な布になりました。ありがたく思い、旅をつづけました。
道に馬がたおれていました。馬は死にそうでした。そばに、さむらいが立っていたので、どうしたのか聞きました。
さむらいは「急ぐ旅をしている。あまりに急がせたので馬がたおれた。かわいそうだが捨てていかなければならない」といいました。
そこで、男は「その馬を、この布でゆずってください」といいました。
さむらいは「それは助かった」といい、布を受けとると走っていってしまいました。
男は、川から水をくんできて、馬に飲ませました。馬は、すぐに元気になりました。1本のわらしべがこんな立派な馬になったと、ありがたく思いながら、馬に乗って旅をつづけました。
夜になりました。どこかに泊まらなくてはなりません。見ると、大きな屋敷がありました。男は、屋敷の門を入り、声をかけました。すると、中から主人がでてきました。男は「旅をしていて、夜になって困っている。今夜一晩泊めてください」といいました。
主人は、あした旅にでようと思っていました。とても喜び「よかったら、留守番をしてくれないか」といいました。
男は、ひきうけました。馬をつないで、座敷にあがりました。今までに見たことのないような立派な屋敷でした。
主人は、旅のしたくをして「もし、わたしが帰ってこなかったら、この屋敷はあなたのものだ」といい、そして「引いてきた馬をかしてくれないか」とたのみました。
男は「いいですよ」といいました。
次の日、主人は馬に乗って旅にでていきました。
そして、何年待っても、帰ってきませんでした。屋敷もたんぼも、みんな男のものになり、楽にくらしたということです。
絵:諸戸美和子
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