第十章 地名が語る伊丹の歴史
〜伊丹郷町とその周辺〜
安達 文昭

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 その伊丹郷町というのは、ちょうどこの場所なんですよ。この富士ホールのある場所、長寿蔵のある場所、あるいは産業道路、ここらあたりが、ちょうど伊丹郷町の真ん中です。有岡城跡と、旧伊丹郷町は、全く同じエリアに重なっておるわけですね。複合遺跡であります。
 で、平成九年二月、今年ですが、今年の二月に、伊丹第一ホテルのすぐ南側のところで、発掘調査が行われましてね。そこから、古い酒蔵の遺構と有岡城時代の堀のあとがでてきたんですよね。同じ場所から、同時に。酒蔵の遺構というのは、カマドだとか、搾り場だとか、井戸とかです。そして、有岡城時代の堀のあとも、同じ場所で見つかっております。それは有岡城の出城であった上臈塚、それが墨染寺のところにあったと伝えられておりますが、その砦、出城の防禦施設であったと思われる堀ですね、その堀がでてきたというわけです。そのようにですね、有岡城時代の遺構、酒蔵の遺構が、同じ場所からでてくるというわけで、まさしく、これは複合遺跡なんですよね。


 さて、「摂津国伊丹村」は、寛文元年(一六六一年)、もういまから三百三十年以上も前ですね。そのときに近衛家の領有地となりまして、以後、領主の庇護のもとに、酒造の町として発展を遂げていくわけです。ちなみに、現在の伊丹市のマークありますね、市章。あれは、近衛家の家紋の一つ、合印紋なんですねえ。長らくにわたって近衛家の領有地であったというゆかりをもちましてですね、伊丹町が稲野村と合併して伊丹市になるとき、昭和十五年(一九四〇年)ですが、そのときに近衛家の了解を得てですね、正式に市章として制定されたというわけです。

 江戸時代の伊丹は酒造りの町として発展したわけですが、『伊丹市史』によりますと、寛文六年(一六六六年)、伊丹の造り酒屋さんは三十六軒でした。それが正徳五年(一七一五年)には七十二軒と倍増しておりまして、さらに、天保十二年(一八四一年)には八十六軒に増えています。こうした清酒メーカーの酒蔵がですね、「本町通り」と呼ばれた産業道路ぞいに、ずらっと建ち並んでおった、軒を連ねていた、とそのようなことのようであります。
 で、そのころ、伊丹から江戸へ積み出された清酒、これは一年間におよそ二十万樽だと記録されております。四斗樽ですね。四斗入りの酒樽が二十万個。文化文政期(一八〇四〜一八三〇年)の頃の、いちばん多いときで二十八万樽でしたか。それくらいのお酒をですね、それ以外の年も、だいたいコンスタントに二十万樽くらいを江戸へ積み出しておったようです。灘の酒が台頭してくる以前は、伊丹が日本一の酒造りの町でしてね、江戸へ送り込まれる酒のシェアーも、伊丹が日本一を誇っていたんですねえ。
 伊丹で造られた清酒は、高瀬舟に積み込まれて猪名川を下りました。それから、摂津伝法村というあたりから樽回船に乗り換えましてね、海上ルートで江戸へ運ばれたと、いうことです。

 いま樽回船と申し上げましたけどね、お手元のレジメに樽回船、模型ですけど、写真を載せております。清酒「白雪」の醸造元として知られる小西酒造さんでは、当時このような自家用の樽回船が就航しておりました。帆船「白雪丸」、ここの写真でも「白雪丸」と読めますね。そのように、産地直送の直行便が就航していたわけです。で、この樽回船の模型、小西酒造さんのご本社の正面玄関を入ったところの、ロビーのところに飾ってあると思います。この写真は、だいぶん前に撮らせていただいた写真なんですけどね。

 まあ、このようにしましてですね、「丹醸」もしくは「伊丹諸白」と呼ばれた伊丹産の清酒、それが大いに伊丹の名を高からしめました。伊丹というのは、もう単なる地名にとどまらずですね、極上酒の代名詞、「伊丹」いうたらいいお酒というイメージ。そういうようなことになりまして、「イタミノサケケサノミタイ」、これ下から読んでも「イタミノサケケサノミタイ」となるんですけどね、そういう回文が生まれるほどの、フィーバーぶりであったといわれています。
 で、「丹醸」というのは、この字が示すように「伊丹で醸された最上酒」、いちばんよいお酒という意味です。それから、「伊丹諸白」の諸白(もろはく)というのは、清酒という意味なんですよ。清酒(すみざけ)が開発される以前は、濁酒(にごりざけ)だったわけですね。澄んだお酒、清酒というのは、もちろんこの伊丹が発祥地でありまして、「伊丹諸白」は「伊丹の清酒」という意味です。


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