第十章 地名が語る伊丹の歴史
〜伊丹郷町とその周辺〜
安達 文昭

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 それから、「北村」です。これはね、珍しいことに、いま北村という地名は全くありません。伊丹市内では、旧村名は全部、大字として残っておりますのにね、北村という地名だけは、なぜか全く地図上から姿を消しております。で、この地域を現在の大字でいいますと、北伊丹、北園、緑ケ丘、鋳物師、高台、春日丘です。ずいぶん広い範囲にまたがる区域ですが、この地区を「北村」といっておりました。これは、北河原地区の北西にあたるところで、伊丹町の北にある村と、そういう意味でしょうね。
 それで、その北村の区域で、まず特筆さるべき旧地名は、「辻村」であろうと思います。北村の中に、また小字として「辻村」という村があったわけです。場所はですね、春日丘と高台との間の急な坂、その伊丹坂を下りまして、産業道路を渡りますと、そこがかつての「北村字辻村」であります。その伊丹坂そのものが、西国街道なんですけどね。で、その「辻村」というところは、西国街道と多田道との交差点、文字通りの辻の村でした。その十字路の脇にはですね、伊丹市の史跡に指定されております、「辻の碑(いしぶみ)」という道しるべが建っております。この写真がそれでありますが、小さな祠のような建物の中に、このような自然石、上のところがとがっておりまして、三角形の形をしたような石、そこに、この写真では少し見にくいですけどね、「從東寺拾里」(とうじよりじゅうり)と彫り刻んであるんです。
京都の東寺からここまで、ちょうど十里の位置である、ということを示している道しるべですね。で、その下の部分、この写真でもなんかはがれ落ちたようになっていますが、現物ももちろん石の表面がはがれていて、何も読むことはできないんです。

 けれども、いまから二百年ほど前に刊行されました、『摂津名所図会』という史料(一七九八年刊)を見てみますと、そのはがれ落ちたところにはですね、東の山城、西の播磨、南の河内、北の丹波の国境から、それぞれ七里であると刻まれていたらしいんですよ。ということは、ちょうど真ん中であるということです、この「辻村」が。摂津国のちょうど真ん中。西国街道と多田道との交差点、辻の村ではあるんですけど、そればかりではなく、摂津国のちょうど真ん中、そういうことを物語っている道しるべだということであります。

 しかし、この「辻村」という由緒ある地名も、いまはもうありません。バス停の名前だけに残っていると思いますがね。で、この北村地区ですけれど、「北村」というところが本郷でしてね、他にまだ、そこから枝分かれした「辻村」「伊丹坂村」「野村(ののむら)」「鋳物師(いもじ)村」という枝郷に分かれておりました。そのうち、大字として現在あるのは、鋳物師という地名だけです。
 さっき言いましたように、北村という村の名前そのものも、全くなくなってしまいました。その下にあった小字は、もちろんなくなっています。ところがですね、鋳物師というのは北村の小字だったんですよ。今日のいちばん初めに、伊丹廃寺のことで申し上げましたね。「伊丹市北村字鋳物師」。その北村のまだ下につく小字であった、鋳物師がですね、現在、大字に昇格して残っているというのは、ちょっと珍しいケースではないかと思います。これは、「鋳物師村」の人々がですね、由緒ある村であるということで、町名変更にさいして、反対運動を起こされたそうでありましてね。まさに、住民パワーによって守られた地名であるというふうに思います。


 で、その次にちょっと書いてますように、この変わった地名、「いもじ」と読むわけですが、鋳物(いもの)の師と書いて鋳物師。これは読んで字のごとく、とかした金属を鋳型(いがた)に流し込んで器物を作る、鋳物職人のことですね。「鋳物師村」は、ここに住んだ昆陽寺の鋳物職人の子孫が、代々、お寺の鐘とか屋根瓦、あるいは鋳物細工、そういうものに腕を振るったと伝えられております。そういう歴史があるだけに、やっぱり地元の方々は、なんとしてもその地名を守りたいと、いうことになったんでしょう。北村という地名がなくなってしまえば、また別の大字が付けられる。先ほど申し上げましたように、伊丹廃寺そのものが「鋳物師村」の区域やったんですけど、現に緑ケ丘という大字になってますからね。黙っていたら、「緑ケ丘○丁目○番○号」と、こうなってしまうところだったんですよね。鋳物師地区の方々が、まさしく住民パワーを発揮して、この由緒ある地名を守ることに成功なさった、ということについては、敬意を表したいと思います。

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