3 江戸積み酒の銘醸地
大坂から江戸へ廻船によって運ばれる物資のなかに酒もあります。初期の酒の銘産地をみますと、摂津の伊丹・池田・鴻池・大鹿・富田・福井、このようなところが銘醸地として数えられています。
江戸では元禄文化の華やかな一七世紀の後半になりますと、伊丹・池田・西宮・鴻池・尼崎・大鹿・山田・清水・三田・兵庫・大坂・堺、それから尾張・三河・美濃・伊勢、このようなところが江戸積み酒のおもな産地でした。
このころ伊丹の酒造業について書かれた井原西鶴の『西鶴織留』のなかに、
池田・伊丹の売酒、水より改め、米の吟味、こうじを惜しまず、さわりある女は蔵に入れず、男も替えぞうりをはきて出し入れば、軒を並べて今のはんじょう、升屋・丸屋・油屋・山本屋……このほかしだいに栄えて上々吉諸白、松尾大明神のまもり給えば、千本の杉葉枝をならさぬ時、津の国の隠れ里かくれなし
と書かれ、伊丹の諸白酒が絶賛されています。このように大切に造られた酒が江戸に送られていました。
掛米
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三 近世酒造業
1 酒造りと規制
のちに摂泉十二郷せっせんじゅうにごうといわれる大酒造地帯に発展する酒造業ですが、酒造りは規制の強い産業でもあります。
江戸時代というのは米を中心とした経済で、次第に貨幣経済が中心となるのですが、幕府としては米を中心に据えたいという政策で来たものですから、原料が米と水という酒造業は、どうしても強い規制をうけます。
豊作であればお米の値段が安くなりますが、米が安くなって一番困るのが武士です。彼らはお給料として米を受け取り、自分が食べる以外の米は全部売って、それで必要なものを整えて生活するわけですから、その米が値下がりするのは非常に困ります。ということで、豊作の年は米の値段を下げないために、酒を造れ、酒を造れと、米の消費をうながし、米価を維持するために、「勝手造り」といって、無制限に酒を造らせることがあります。
酒しぼり
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逆に、凶作ともなりますと、米の値段は上がります。そうすると米を買う町人が困ります。一揆などが起こっては大変ですから、今度はあまり酒を造るな、酒造用の米を市場に流して米価を抑えろ、というので酒造りを制限します。
この制限が不作の程度によって変わりまして、二分の一にしろとか、四分一、あるいは八分一しか造ってはいけないというように制限されます。ですから酒家はこのような幕府の経済政策によって、造りを多くしたり控えたりするわけですので、非常にリスクの大きな産業なのです。
通常一〇〇〇石造っている酒屋が五〇〇石しか造ってはいけないといわれると、あとの五〇〇石分の設備は寝かせておくわけですから、資本の蓄積があれば持ちこたえられますが、ぎりぎりでやっている酒家はその時点で倒れてしまいます。このような規制のなかでの産業ですので、酒造業というのは、長い目でみれば大きな利益があったのですが、危険な産業でもあったということができるかと思います。
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2 酒造株
酒造規制と直接かかわることなのですが、酒を造るには酒株が必要で、酒株を持っている人が酒を造ることができます。この酒株は明暦三年(一六五七)に設定されたようだといわれていましたが、最近の研究では、幕府が万治三年(一六六〇)に、明暦二年の各自の酒造高届け出させ、これを明暦三年の酒造株高と定め、酒株帳に記録し、この数字を基準にして、二分一造りが発令されたといわれています。
当時は幕府や藩の許可を受けた株仲間という、商工業者が自分たちの権益を守る独占的な同業者組織がありましたが、質屋株などがもっとも早いものです。ドロボウが盗んだ品物を質屋に持って行き、お金に替えるということもよくありましたから、そのような犯人の探索をしやすくするのに都合がよいなどという面もあったようですが、酒株も米を大量に消費する産業ということで、早い時期に株立てされています。
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酒造株とはどのようなものかといいますと、酒は誰でも造ってよろしいというものではなくて、酒造株を持っている人に限られます。これが、形はちょうど将棋のコマを大きくしたような札のおもてに、酒造人の名前・住所、酒造高が米で表示されています。酒造米高は、ここまでは造ってよろしいというもので、それ以上の酒造はしてはいけないという原則のものです。
それで、さきほど申しましたように、生産調整のときに株札に記された造石高が機能して、これに記された石高を基準に、一〇〇石の人は、その半分にしなさいというと、五〇石を造るということになります。
資料(A)は酒造石高が三分一に制限されたときのもので、「諸国で行なう酒造は、これまで三分一としていたが、米も潤沢になりつつあるので、今年は二分一にしてよろしい、だだし、ところにより領主より減造を申し付けることがあってもかまわない」というようなことが記されていますが、株高を基準にして、三分一とか、二分一とか触れています。
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