第十二章 伊丹酒造業と小西家
〜古文書からの考案〜
石川 道子

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表1  
表2  
表3  
資料A  
資料B  
資料C  
資料D  
資料E  
資料F  
資料G  
資料H  
資料I  
資料J  
目次へ  
 
 4 いろいろな酒株
 由緒株というのは、ほかの職業などでもよくありますが、たとえば、大坂の陣のとき、家康公の本陣を勤めたが、そのとき何とかをお出ししたところ、公が大変お喜びになったので、その由緒をもって現在にいたるまで当家ではその製造が許可されている、といったようなものですが、この時代は、このような由緒がものをいう時代だったようです。
 酒株にも由緒付きの正法院株、菊屋株、高橋株、清水株などがあります。
 正法院株は奈良の正法院八左衛門、菊屋株は同じく奈良の菊屋治左衛門、高橋株は河内の高橋孫左衛門、清水株は富田の清水家、通称紅屋市郎右衛門が持っている酒造株ですが、これらの株に限って、制限令の対象になりませんでした。それで自分では造らないで、その株を酒造家に貸し付けるわけです。借り賃は高いのですが、制限令の出た年など、この株があれば、これについては減醸しなくてよいわけですから、非常に都合がよいわけです。幕末にはこのような由緒株にも制限令が適用されるようになったので、ありがたみも薄れるのですが、伊丹にもこのような株が入ってきています。


 ほかにも、町奉行拝借株という酒株があります。これは欠所株ともいわれ、相続人がいないとか、犯罪あるいは不正営業などによって罰せられ、酒株を没収されたもので、この株を奉行所から希望者に貸与したのですが、貸し付けは希望者の入札によって、もっとも高額の金額を示した人に貸し付けられます。
 このほか、関八州上酒御試造上け株などもあります。これは、松平定信が中心になって行なった寛政の改革において、江戸のお金が上方に流れるのを少しでも阻止しようとして、江戸近郊で産業を起こそうと、酒も地廻りの酒を造るよう、希望者に資金を貸し付けたり、上方の酒の入津制限を行なったりしたのですが、結局うまくゆかず、関東で酒を造り始めた酒家も続かず、その株が明き株になりましたので、その株を貸し付けることになったものです。

 酒造業と一口に申しましても、このようにいろいろな酒株によって造られていましたので、同じ酒家で造っても、営業税のかからない酒もあり、税金のかかる酒でもその種類や税額が異なる酒があり、さらに他の酒造家から借りた酒株、またよその土地で造る出造りなどもあり、一様ではありません。
 新興酒造地帯である灘の酒株は営業税を賦課され、伊丹・西宮・兵庫などの酒株は租税のかからない無冥加株と申ましたが、伊丹の場合ですと、幕府にたいする税は免除される無冥加の株ですが、領主である近衛家に、安くはない冥加銀を納めています。

 四 江戸積み酒の輸送
   1 江戸積みのはじめ
 江戸への酒の輸送は廻船で運ばれました。この廻船が菱垣廻船であり、のちには樽廻船になります。
 江戸積み酒造業のはじめについて、『日本山海名産図会』(寛政十年‖一七九八刊)に次のように記されています。
伊丹ハ日本上酒の始とも言べし、是又古来久しきことにあらず、元ハ文禄・慶長の頃より起こりて、江府に売始めしは伊丹隣郷鴻池村山中氏の人なり、其起る時ハ纔わずか五斗、一石を醸して担になひ売とし、或ハ二十石三十石にも及びし時ハ、近国にだに売りあまりけるによりて、馬に負ふせてはるばる江府に鬻ひさぎ、不図はからずも多くの利を得て、其価を又馬に乗せて帰りしに江府ますます繁盛に随ひ、石高も限りなくなり、富巨万をなせり
 このような記述があります。


 内容の一つ一つについてはおいておきますが、廻船以前は馬で運んだことが書かれています。この駄送りについての史料は見たことがないのですが、酒樽の数え方を二樽で一駄といい、一樽を片馬といっています。一〇駄片馬と書かれていれば二一樽です。馬の背の左右に酒樽をつけた名残でしょうか。
 海上交通が開けてきますと、酒の流通も一変します。一度に大量の荷物が運べます。
 最初に上方の酒を船で江戸に送ったのが、元和五年(一六一九)の史料にみえ、紀州の船を堺商人が借り受け、それに荷物を積み込んで大坂から送ったそうですが、このとき酒も送られています。このころは木綿・油・塩・醤油・酢などを混載していました。
 酒については、正保期(一六四四〜四七)に酒だけを積み出したという記録があります。でも、まだ酒積み切りというのは通常のことではなく、酒もほかの荷物と混載のかたちで輸送されていました。


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