第十二章 伊丹酒造業と小西家
〜古文書からの考案〜
石川 道子

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表1  
表2  
表3  
資料A  
資料B  
資料C  
資料D  
資料E  
資料F  
資料G  
資料H  
資料I  
資料J  
目次へ  
 
 4 樽廻船
 菱垣廻船は順調に運営されていたのですが、享保十五年(一七三〇)、十組問屋から酒店組が脱退することになりました。このころ海が荒れ海難が続出したのですが、酒造家としては、船仕立て方や損害補償制度に首肯しかねる節があったようです。
 船を仕立てるとき、いろいろな荷物が積み込まれます。積み込むにあたって、下には重い荷物、上の方には比較的軽い荷物を積み、一〇〇〇石船であれば一〇〇〇石分の荷物を積み込むわけですが、さまざまな荷物を順序よく積み込むには時間がかかります。塩は下積み荷物なのにまだ届いてないとか、紙は上の方に積むので後からというようなことです。


 重量のある酒は下積み荷物です。元来が腐敗しやすい酒ですので、酒家としては早く送りたい、江戸の酒問屋の蔵に入って何日以内に白濁すると、つまり腐ると、それは酒家の責任という約束がありますので、早く送りたいのに、仕立てに時間がかかります。
 また、海難事故で刎荷をする場合、捨てられるのは上積み荷物です。酒は下に方に積み込まれるので刎ねられることはないのですが、上積み荷物の損害補償を常にしなければならず、おもしろくない。このようなことから酒店組は十組問屋から脱退し、酒専用の船、樽廻船が出現し、酒造家が廻船業に進出するわけです。
 樽廻船にしますと、酒だけ積んでサッと出発できますので、出荷から江戸に着くまでの時間が少なくてすみます。船自体の構造は菱垣廻船も樽廻船も同じですので、運行速度は変わらないのですが、船を仕立てる時間が短くなります。

 樽廻船の場合上方から江戸まで、一〇日から二〇日ほどかかっているようです。和船の運行は遠洋航海と違い、陸に沿いながら、富士山をみたり、半島を見たりしながら、夜間は湊に入り、朝に出て行く、風が吹けばまた湊に戻り、日和を待って出て行くというもので、長いのは二カ月もかかったものもあるようです。
 ところが、すごい記録があります。新酒番船という、毎年行なわれる行事なのですが、大坂・西宮の湊、―後には西宮になりますが―から江戸は酒問屋の蔵の立ち並ぶ新川まで、三日半とか四日といった大変短い時間で到着しています。いまでいうヨットレースのようなものなのですが、西宮湊に樽廻船問屋の船が勢ぞろいし、鉦や太鼓で送られて、江戸一番着を競うレースです。江戸でもこれを待ち受けて、船の着番は刷り物にされ、船頭には祝酒や金一封という華やかな行事がありました。
 小西家の史料のなかにも、江戸出店から伊丹の本家へ、新酒番船の入津状況を知らせたものが残っております(資料・D)。

 五 小西家と酒造業
   1 近世初期の小西家
 上方および伊丹の酒造業ということをこれまでお話しましたが、このなかで、具体的にどのような経営が行なわれたのかを小西家にみて行きたいと思います。
 小西家は最初「薬屋」という屋号で登場します。当主はやはりそのころから新右衛門を世襲しています。近世初期前後には伊丹で、屋号の示すように大宝丸という薬を商い、酒も造っていたようです。
 このころは古すぎて、どのくらいの酒を造っていたのかわかりませんが、寛文六年(一六六六年)の史料をみますと一四二〇石余りの酒株を所持しています。それとともに、分家伝左衛門一二四〇石余りが確認できます。


 当時伊丹の酒造家三六人、酒株四八とあって、伊丹郷全体の酒造米高がおよそ八万石です。もっとも大きいのが油屋の屋号を持つ六人で、〆て二万石、株数一二。次が丸屋の六人、次に升屋の五人などに続き、薬屋二人は八番目に位置しています。
 次に元禄十年(一六九七)は、これまで冥加金のかからなかった酒に五割という酒税がかかることになった年で、どの酒家も税金を回避して、過小申告をしています。
 伊丹の酒造石高は一万六〇〇〇石余、さらにこのうち六〇〇〇石が控除され九九六八石余に酒税がかかっています。そのうち稲寺屋の一一四〇石余を筆頭に、薬屋新右衛門五一八石余、同兵四郎(伝左衛門の跡)三一〇石余とあります。このときの状況は表(1)をご覧ください。


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