第十三章 伊丹郷町と酒造業
〜発掘にみる産業とくらし〜
川口 宏海

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 私は発掘を中心に仕事をしておりますので、今日は発掘からみた伊丹の町についてお話したいと思っております。伊丹の町というと酒造り、これがひとつの大きな産業であります。この伊丹の基幹産業であった酒造りと、その当時の人々の暮らし、この二つを発掘からみてどうなのかということをお話していきたいと思います。前回(第八章)は少し古い荒木村重の時代のお話でしたが、今日は江戸時代、少し新しい時代のお話になるかと思います。このお話をするにあたって私が一番嬉しいのは、酒蔵の中で酒造りの話ができるというまさにうってつけの場所でお話ができることです。文献の方からも酒造りの話があったかと思いますが、生きた材料の中で伊丹の酒造りの話ができるということです。この場所には酒造りの展示品がございます。それをみながら酒造りの話ができるということで非常に嬉しい思いをいたしております。

  一、酒造業の発展
 最初に、酒造りについての話をしたいと思います。伊丹の基幹産業である酒造りについては、結論を先に申しますと、この酒造りの発展が伊丹の町の発展にもつながっているということです。考えてみれば当たり前の話でありますが、いまの日本の場合でも高度成長があり、その間にわれわれの生活は非常に豊かになりました。収入が増えまして、われわれの暮らしが非常に豊かになりました。古い日本からすれば雲泥の差があります。日本が高度成長を果たした、その経済発展の中で暮らしもよくなった、ということでありまして、実は江戸時代の伊丹の町でも同じようなことが起こったのだ、ということです。それが今日、私がお話したい柱の一つです。

(一)酒造りの歴史
 酒造りの話ですが、米が日本で栽培されたのはざっと二千数百年前ですが、この頃から米を材料にした酒はあったであろうと考えられています。ただ、私たちは現在酒屋で酒を買って飲みますね。これをわれわれは当たり前のように思っているのですが、昔は酒屋はありません。ではどうして酒を飲んでいたのかといいますと、神さんをお祭りするときに酒を造るのです。あるいはお祭りのときにわざわざお酒を造る。そして飲んで楽しい気分になる。
 酒屋が出てきますのが鎌倉時代だといわれております。古い鎌倉の町についての文献が残っておりまして、最近酒屋が増えすぎたので鎌倉の町中の酒壷を壊すということをやった記録が残っております。鎌倉時代の後半のことであります。

 ところが人間に酒はつきものですね。室町時代になりますとそういう風潮にもかかわらず、ますます酒屋がふえていきます。室町の中頃ぐらいになりますと、京の町中は酒屋だらけという文献記事があるくらい酒屋が増えてきます。その頃の酒造りというのは今とずいぶん違いまして、壷に酒の素になる麹と米を入れて、もちろん米は蒸しますけれども、その中で醸造するのです。当時の壷はそう大きなものではありません。高さが一メートルぐらいですかね。これを地面に埋めて、その中で酒を造る非常に原始的なつくり方です。古いこういう形は春日大社にも残っておりますけれども、そうしてつくられた酒はいわゆる濁り酒であります。あまり技術が発達していません。安土桃山時代の話ですが、当時日本にやってきたポルトガルの宣教師が、向こうではワインを使って洗礼するところを日本ではワインがありませんので、日本酒でその代わりをした。ところが買ってきておいて明くる日使おうとしたらそれが酢になっていたという話が残っています。(ルイス・フロイス『日本史』)技術的にそれほど上等ではなかった。その当時の酒はそのようなものであったようでありまして、アルコール度もそんなに高くなかったであろうと考えられます。

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