第六章 鬼貫と伊丹風俳諧
〜伊丹の文芸活動〜
瀬川 照子

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 写真(5)は、鬼貫の「にょっぽりと秋の空なる富士の山」の一行物です。「仏兄」と落款しております。鬼貫の別号です。この作品をもとにして、住友銀行の前に句碑が建っております。句碑はこの原本を三行割にしております。仏兄という号もわかりにくいので鬼貫にかえております。この自筆一行物をもとにして句碑の文字は彫られております。


 写真(6)は、先程ご説明しました鬼貫の「まことの外に俳諧なし」の俳諧精神をそのまま表現した句だと申しましたところの、「おもしろさ急には見えぬすゝき哉」の短冊です。鬼貫と落款しております。この鬼というのが非常に特徴がありましてね、鬼の一角目のはねがはっきり書かれていたり、鬼のムの書き方がこの作品とかけはなれていると偽物になるわけなんです。これは、打ち雲模様の短冊で、さらに金箔が貼られております。雲が短冊のなかにすきこんである古典的な短冊ですね。短冊は日本人の美意識をよく表現したもので、今のカードに近いんですけど、凝ったものが使われております。

 写真(7)。「進みけり白柄の切貝風呂吹の兵」。この作品は、鬼貫が二十歳ぐらいに書いた伊丹風の頃の短冊です。書体もちょっとかわっているんです。これは冷泉風という、一種の書風があるんですけれど、藤原定家の風を真似た書風です。墨流しの短冊ですね。墨を流して模様を付けた短冊です。

 写真(8)は、小西酒造の先祖、小西馬桜の「牛の角や田螺のからの置所」と書かれた短冊です。字もすごいですね。短冊は好み短冊といって極細の筆で絵が描かれた短冊ですね。絵が銀で描かれ、銀箔が貼られています。銀がどうしても黒くなってしまうんですけど、手書きの絵があるうえに、銀箔が貼られた短冊に書いております。これが伊丹風を代表する句ですね。

 写真(9)。これは鬼貫の短冊です。「恋のなき身にもうれしや衣がえ」「々哩」と、落款しています。鬼貫の別号です。江戸時代は陰暦の四月一日、厚手の色の濃い冬の着物から夏用の着物にぱっと衣更えをしました。昔は季節というのがはっきりしておりまして、衣更えの色のあかるい袷に着物を着るのはこの日からという一つの区切りがありました。恋のない身でもぱっと夏衣にかわると非常に軽やかな気分になって心が弾む。現在、学校でもそうですね。六月一日に夏用の白い服になると軽やかな気分になるんですけども、恋のない身でも、衣更えの時となると、心がかろやかでうきうきするという句です。この作品はすごくきれいな墨流しの短冊にさらに絵が描いてありますね。花ショウブの絵だと思います。ですから、衣更えの季節にふさわしいショウブの絵が描かれたものを使ってます。さらに金箔が貼ってあります。短冊の模様はすごく小さなものですが、よく見ますと、季節にあったものを使ってますね。水の流れを墨流しで表現して、そこに花ショウブの絵があり、金箔が貼られた、これは非常に美しい短冊です。さりげないところに気を使っている本当に奥ゆかしい日本人の美意識がこの短冊によく出ております。

 写真(10)。「茶花や春によう似た朝日山」。これは鬼貫の一行物です。元気に大ぶりの文字で書き出したんですが、行がつまってしまって朝日山が書けなくなり、脇の方に小さく書いております。これも気取りがなくて、鬼貫の元気がそのまま表現されており、面白い作品だと思います。自筆の落款の鬼貫の鬼のムの書き方に一貫した書き癖があります。

 写真(11)。これは伊丹の町を詠んだ鬼貫の懐紙です。前書きに、「前に酒家ありて、菊のしたたりを流し」。菊とはお酒のことですね。お酒を飲みながら、「後に松高うして、古城のむかしをみす」。うしろを見ると松が高々とあって、有岡城をしのんでおります。「月花を我物顔の枕かな」、月と花を我が物顔にゴロンと横になって楽しんでいるんでしょうか。横になりながらリラックスをして、月と花、いわゆる自然風物の景を、美しいこの伊丹の地を充分満喫しております鬼貫の作品です。この直筆をもとにしまして、JR伊丹駅の前に大きな句碑が建っております。伊丹の町と有岡の城を詠んだ句ですから、有岡城跡に近い所に句碑が建っています。非常に大きな立派な句碑です。この作品はひらがなで、「おにつら」と落款しております。
 本日は鬼貫と伊丹風俳諧について話させていただきました。つたない話でしたが、鬼貫を理解していただく一助となれば幸いです。
(柿衛文庫学芸員)

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