第六章 鬼貫と伊丹風俳諧
〜伊丹の文芸活動〜
瀬川 照子

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 例えば元旦の句を作ります時にね、今日は元旦であるというので、机の上で、元旦の句を頭の中でひねって作るのでなくて、心が清々しい新年にこの一年の始まりを心から喜ぶ心情になっていたらね、心身がそうなっていましたらね、その人が元旦を愛でる言葉を発したらそれが、鬼貫が求めているまことの句になるということを言っているわけです。整理してみますと、まず言葉を技工的に作るな。心を入れてまことの句にしなさい。まことから発した句は古くも新しくもならず、永遠に人の心をうちます。そして、自然体のまま、まことの言葉がそのまま句になります。言葉がそのまま句になるには普段日頃、まことの生き方、詩人の生き方をせよという、これを鬼貫は延々と述べているのだと思います。

 ですから、本当に月が美しいとか、花が美しいとか、感動したときはその感動のままその心を大事にして、それをぱーっと、口から出したものが、鬼貫のいうまことの句といっていると思うんですよね。それは非常に芭蕉とは、違っております。同じ時代に生まれていまして、東の芭蕉、西の鬼貫と言われておりますけれども、根本的に違いますのは、芭蕉は意志の人、求道の人です。非常に難学をして俳諧の宗匠になります。二十代で伊賀上野を出まして、江戸で俳諧師になるのですが、幽山という俳人の執筆をして俳諧の修行をし、しばらくの無名時代を過ごし、やっとのことで西山宗因の俳席に同席するチャンスを得ます。芭蕉も、西山宗因の新しい句に影響を受けて、新進俳諧師としてやっと目立ちはじめるのですが、その影には、生活をたてるために水道工事までしているんです。アルバイトですね。そうしてその自分が俳諧の道に繋がるために非常なる努力をします。

 芭蕉も鬼貫も同じようなことを言ってるのですね。その詩的環境に自分を置くこと、ポエムが生まれるような環境に自分を置くために、芭蕉の場合でしたら、わざわざ江戸の町中から深川という田舎に隠棲しまして、世俗的でわい雑な生活から、自らを遠ざけて、そして詩的環境を作ります。それでも足りなくて、その芭蕉庵を人手に譲り、「奥の細道」で代表される行脚生活に身を置きます。今度は命懸けで、自分がその死と対面するような厳しい環境において、そのなかで、自然と人生の実相に深く思いをはせたものを句にしようとしました。常に求道者としての厳しい生活を強いてきました。

 鬼貫はそうじゃないんです。自分一人の心が問題だったわけなのです。詩を生み出すためのまことある柔軟な心や感動というものを大事にして、それをそのまま素直に出せばそれが句である。その違いですね。ですから、よく芭蕉は習得の上手、鬼貫は生得の上手、といわれます。鬼貫は生まれながらにして詩人の心を備えていたということです。鬼貫は生まれながら生得の上手、芭蕉は習得の上手と言われるように、芭蕉は求道の人ですけども、鬼貫は天性の人だと言われます。ですからよく鬼貫の句を見てちょっと理解に苦しむんですけどね。それは、鬼貫が自分の句を添削して練らなかったという点にも関わります。ですから、そのままパッといった言葉が、そのまま句になっておりますので、非常にわかりにくいところもありますけども、それは鬼貫の感動がそのまま表現されたと、そういう見方で、鬼貫の句を見ていただきますとね、また、今までわからなかったものが見えてくると思います。

 例えば、芭蕉は句が整わなかったらその句を舌の上で千回ころがせと言うんです。非常に厳しい姿勢で句に検討を与えています。鬼貫は表現方法の技法にこだわることを嫌いました。ですから、そこに鬼貫の場合と、芭蕉の場合との違いがありますが、鬼貫は私が見ますともう天性のね、詩人であったと思うわけです。また、鬼貫は芭蕉のようにプロの俳諧師ではありませんでした。弟子は全然おりません。ですから、鬼貫は俳諧の弟子をとって句を添削してそれで点料を得て生活していたわけではありません。孤高の俳人と言われるのはその点です。問題であったのは句を作り出す時の自らの心のあり様だったのだと思います。ともあれ、鬼貫も芭蕉も如何に句を作るかということを超えて、如何に生きるかということが、句作の上で大切であるというところまで深く考えたということが、歴史に残る俳人となり得たと思います。

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